薬機法・景表法ニュース

医療機器の虚偽広告で初の措置命令──問題点と事業者が今後注意すべき点【2025年11月7日】

医療機器で「糖尿病が治る」「血液きれいに」と虚偽広告、尼崎市の会社に厚労省が措置命令

「糖尿病が治る」などと医療機器の虚偽広告をしたのは違法だとして、厚生労働省は7日、販売会社「インプレッション」(兵庫県尼崎市)に対し、医薬品医療機器法に基づき再発防止を求める措置命令を出した。厚労省が同法による措置命令を出すのは初めて。
発表などによると、同社は2023年9月以降、全国各地の営業所で開いた体験会で、自社製品の家庭用電位治療器について、「糖尿病が治る」「血液をきれいにする」などと本来は確認されていない効能をうたう掲示をするなど、虚偽・誇大広告をしたとされる。同社は「命令を厳粛に受け止め、再発防止と信頼回復に向けた取り組みをさらに進める」などとしている。

参照元:読売新聞(2025年11月7日より)

厚生労働省は、家庭用電位治療器を販売する「インプレッション」(兵庫県尼崎市)に対し、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく措置命令を初めて発出しました
薬機法における措置命令の適用は今回が初めてであり、今後の薬機法運用を考えるうえで事業者にとって非常に重要なターニングポイントとなる事案です。

同社は全国の体験会において、家庭用電位治療器について

  • 「糖尿病が治る」
  • 「血液をきれいにする」

といった、科学的根拠が確認されていない効能効果を掲示し、虚偽・誇大な広告表示を行っていたとされています。
これは、医療機器広告における基本原則である
「承認(認証)されていない効能・効果をうたってはならない」
という薬機法の規定に明確に反する重大な違反行為です。

以下では、今回のニュースのポイントと、事業者が今後どのような点に注意すべきかを整理します。

■ 今回の事案の概要

厚生労働省は2025年11月7日、インプレッション株式会社(兵庫県尼崎市)に対し、医薬品医療機器等法(薬機法)第72条の5第1項に基づく措置命令を出しました。

対象となったのは、同社が販売する家庭用電位治療器「イアス30000」で、認証上の効能・効果は以下に限定されています。

  • 頭痛の緩解
  • 肩こりの緩解
  • 不眠症の緩解
  • 慢性便秘の緩解

しかし同社は、全国各地の営業所に設置した体験会場において、来場者に対し、

  • 「糖尿病が治る」
  • 「血液をきれいにする」
  • 「高血圧が治る」など他の疾病にも効くかのような説明

といった、本来認証されていない効能・効果をうたう虚偽・誇大広告を行っていました。

これらは、薬機法第66条第1項(虚偽・誇大広告の禁止)に違反すると判断され、その違反に対して、将来の再発防止を目的とした措置命令が出された、という構図です。

■ 今回のニュースの問題点

① 認証外の効能・効果をうたった点(虚偽・誇大広告)

電位治療器「イアス30000」は、認証上はあくまで「頭痛・肩こり・不眠症・慢性便秘の緩解」までしか効能が認められていません。

それにもかかわらず、同社は体験会の掲示や営業員の説明で、

  • 糖尿病
  • 高血圧
  • その他の疾病

に対して「治る」「良くなる」と受け取れる表現を用いており、承認(認証)範囲を明らかに逸脱した訴求でした。

薬機法においては、

「承認(認証)されていない効能・効果を広告すること」=虚偽・誇大広告(66条違反)

となるため、極めて典型的な違反パターンと言えます。

② 体験会・口頭説明も「広告」として扱われる点

本件の違反行為は、全国各地の営業所に設置された商品の体験会場で行われていたものです。

  • 会場での掲示物
  • 営業員による口頭説明
  • その場での販売誘導

これらはすべて、薬機法上の「広告」になり得ます。
「クローズドの場」「口頭だから大丈夫」は通用せず、商品販売現場での説明内容も広告規制のど真ん中であることが改めて示されました。

③ 高額機器を健康不安層に販売していた構造

報道によれば、体験会場では、1台約100万円の機器を、50~80代の女性を中心に販売し、会場のみで約53台・約4,800万円を売り上げていたとされています。

  • 高額
  • 慢性疾患・生活習慣病に悩む層
  • 「治る」といった断定的な表現

という組み合わせは、行政が最も重く見るパターンであり、消費者被害の潜在的リスクが非常に高い事案と評価されてもおかしくありません。

■ 薬機法で「初」の措置命令、その意味

今回の措置命令が特に重要なのは、
薬機法に基づく措置命令(第72条の5)が、今回インプレッション社に対して初めて発動された
という点です。

措置命令は、2021年の薬機法改正で新設された比較的新しい制度で、

  • 既に行われた違反行為に対し、その
    • 再発防止のための体制整備
    • 教育・訓練の実施
    • 改善計画の策定・提出

を行政が命じる「将来に向けた是正措置」です。

厚労省は今回の措置命令で、同社に対し、例えば以下を命じています。

  • 医療機器広告が、薬機法その他の法令が禁止する広告にならないような体制整備
  • 法令遵守を優先する企業風土の醸成
  • 役員・従業員に対する継続的な教育訓練
  • 虚偽・誇大な表示の再発禁止
  • 1か月以内の是正措置・再発防止策の改善計画提出

これは、単に「一度問題を起こしたから注意しました」で終わるのではなく、

刑事・行政とは別軸で、「将来の危険を封じるための新しいツール」として措置命令が本格的に使われ始めた

という意味を持ちます。

したがって、今回のケースは、
「虚偽広告をすると、逮捕や罰金だけでなく、将来に向けた体制整備まで行政から指示される時代になった」
ことを象徴する事例と言えます。

■ 今後、事業者が注意すべきポイント

医療機器・健康関連商材を扱う事業者は、今回の事案を他人事と捉えない方がいいレベルになっています。

① 「承認・認証された効能・効果」以外は言わない

  • 認証書・承認書、添付文書に書かれている効能・効果だけが、広告で言って良い内容
  • 「血流が良くなる」「体質改善」「免疫力アップ」「糖尿病・高血圧にも」など、
    承認外の疾病・作用機序・改善効果を連想させる表現はNG

今回問題になったのは、まさにここです。

チェックの実務としては

  • 商品ごとに「言っていいことリスト/言ってはいけないことリスト」等を作る
  • 営業・マーケ・制作など全員がそのリストを参照できる状態にする
  • 新しい広告・台本・セールストークが出るたびに薬事チェックを通す

ことが必須になってきます。

② 体験会・営業トーク・セミナーも「広告」として管理する

今回の違反は、Web広告やチラシだけでなく、商品体験会場での掲示・営業員の説明が問題とされました。

事業者としては、

  • 「広告=制作物」だけではない
  • 商品販売現場での説明や提案も広告として規制される

という意識に切り替える必要があります。

具体的には:

  • 商品体験会やイベント用のトークスクリプトを薬事チェックの対象にする
  • セミナー資料・プレゼン資料も事前に法令確認
  • 同じ商品なら、オンライン・紙・対面でメッセージを統一し、現場での“アドリブ誇大表現”を抑止する

③ 「治る」「効く」「改善する」系の治療表現は最も危険

今回ニュースでも取り上げられている

  • 「糖尿病が治る」
  • 「高血圧が治る」
  • 「血液がきれいになる」

といった文言は、典型的なNGワードです。

医療機器や健康商材で次のような表現が出てきたら、一旦すべて止めるくらいの運用が安全です。

  • 「○○が治る」「完治する」
  • 「薬がいらなくなる」
  • 「病院に行かなくてよくなる」
  • 「あらゆる病気に効く」

これらは、承認医薬品であっても安易には使えないレベルの表現です。

④ コンプライアンス体制・教育が“義務”に近くなっている

厚労省の措置命令では、体制整備と継続的教育までを具体的に命じています。

これは裏を返すと、

「体制も教育もしていませんでした」は、今後どんどん通用しなくなる

というメッセージでもあります。

事業者側で最低限やっておきたいのは:

  • 薬機法・景表法の基礎研修(新入社員+営業・マーケ対象)
  • 禁止表現リスト・チェックフローの整備
  • 代理店・販売委託先との契約にコンプライアンス条項を入れる
  • 内部監査・スポットチェック(商品体験会・コールセンター・店舗トークの抜き打ち確認など)

といったところです。

⑤ 今後のリスク:刑事・行政・金銭的ペナルティの「三段構え」も視野に

今回インプレッション社は、刑事面(逮捕・捜査)と行政面(措置命令)が両方動いた事案として他媒体でも整理されています。

加えて、2021年改正薬機法では、課徴金制度も導入されています。制度上は、

  • 刑事罰
  • 行政処分(業務改善命令・措置命令 等)
  • 課徴金

が併科され得る構造になっていることも、コンプライアンス上は押さえておくべきポイントです。

※現時点の公開情報では、本件で課徴金納付命令が出たという発表は確認できません。

■ まとめ

今回のニュースは、

  • 虚偽・誇大広告(「糖尿病が治る」「血液がきれいになる」など)
  • 体験会という販売現場での口頭・掲示による違反
  • 薬機法に基づく初の「措置命令」の発動

という三つの点で、薬機法実務上きわめて重要な意味を持つ事案です。

事業者としては、

  • 承認・認証範囲を超えた効能訴求をしないこと
  • 広告=制作物だけでなく、商品体験会・営業トークも含めて管理すること
  • 社内・代理店を含めた教育と体制整備を進めること

を、見直す必要があります。

このニュースから学んでおきたい知識

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